情報処理学会論文誌, vol.65, no.1, pp. 46-60, 2024
近年,電力自由化と脱炭素化が益々注目されており,大口需要家の電力調達もそれに応じて多様な手段を組み合わせた複雑なものになっている.その問題に対し本研究は,大口需要家がカーボンニュートラルを実現するための電力調達戦略を分析した.電力消費と供給エージェントを含む日本卸電力取引市場(JEPX)の一日前市場を模擬した人工市場モデルを構築し,実際の電力消費パターンを反映した工場エージェントを大口需要家として導入した.本研究では,まず,太陽光発電(PV)・燃料電池(FC)・蓄電池(SB)・デマンドレスポンス(DR)を含む全ての調達手段を活用した工場エージェントに適用する新しい電力調達方針を作成した.その後シミュレーションを実行し,工場がカーボンニュートラルを実現するための総コストの観点から,各調達手段の効果を分析した.その上で,さらにDRシナリオの改善と効果の検証を行った.結果として,PVは総コストの削減に対して顕著な効果を持ち,FCは発電単価の値下げに伴い効果が大幅に増大していた.蓄電池とDRの削減効果はPVほどではないが,それぞれ一定の効果が確認できたため,有効な調達手段と考えられる.これらの分析結果から,DRシナリオにPVの影響を考慮すべきと考え,PVの稼働を考慮するDRシナリオを作成した.その結果,提案した新しいシナリオが脱炭素にかかる総コストの低減につながることが実験により確認できた.
電力市場; マルチエージェントシミュレーション; カーボンニュートラル; 電力調達; 工場;
@journal{Cheng2024-ipsj, title={{電力市場シミュレーションを用いた大口需要家によるカーボンニュートラル実現のための電力調達戦略分析}}, author={程, 竜 and 平野, 正徳 and 和泉, 潔}, journal={情報処理学会論文誌}, volume={65}, number={1}, pages={46-60}, doi={10.20729/00231730}, year={2024} }